
毎年、お正月を迎えると思い出す。

そんな経験をしたのは、後にも先にもコノ年だけ。頻繁に経験することではないのに、なぜひと月の間にまとまって来たのか?未だに謎です。たまたまと言えばそれまでですが、毎年この時期になると思い出すので、その体験を記事にしてみたいと思います。
スポンサーリンクその1:1月4日 真夜中のSOS
季節は冬。正月休みも終わりに差し掛かった1月4日。時刻は深夜0時過ぎ。
凸なべは実家である親所有のマンションの自室で、ベッドに横になり眠りにつこうとしていた。凸なべの自室の窓はマンションの廊下に接しており、その廊下の窓は外。外と言っても公道と接しているわけではなく、マンションの敷地内で駐車場に行ったりする場合に通ったりする通路。廊下を歩いている人の足音や声は聞こえますが、外の通路を歩いている人の声などは、よほど大きくなければ聞こえない。高さ的には2階部分に位置している。
しかも、季節は冬。北海道は雪が積もっていた。この外の通路は除雪などはしていず、通るとしたら膝下ほどまで積もった雪の中を気合いで進むことになるため、冬の間は通る人はほとんどいない。
シンと静まっている自室のベッドでウトウトし始めたとき、外から「ドサッ」という音が聞こえた気がした。特に大きな音でもなく、気のせいかと思い重くなった瞼を開けることもなかった。
だが、次の瞬間。若い女の泣き叫ぶ声でベッドから飛び起きた。
「助けてー!!助けてくださいー!!」
飛び起きて耳を澄ませるが、もう声は聞こえていない。

そう思った数秒後、
「助けてー!!いやぁぁぁぁぁ。助けて―!」
夢ではない。そして、幽霊にしてはあまりにハッキリとした発声。声の感じから廊下ではなく外だ。このとき脳裏に浮かんだのは「通り魔的な人に追われて逃げている」。三十路過ぎの体力の欠片も無さそうな凸なべが闘える相手ではない!110番か!?ほんの短い時間に、よくイロイロ考えたものだと思う。
そして、どうするべきか考えているとき再び声がした。「助けてください。」という泣きじゃくるような声。
ここであることに気づく。

意を決して確認しに行くことにした。
とはいえ、誰にも伝えずに行ってしまった場合、ただの犬死になる可能性もある。こんな寒い中、朝まで気づかれずに死ぬのはいくら何でも可哀そうだ(自分が)。
父は凸なべの隣の部屋で寝ていたが、熟睡しているのか気づいていない模様。まだリビングで起きていた母に、外から女の人が助けてって叫んでいる声がすると伝えた。母は見てくるというが、両親は共にアラウンド70。もし、犯人的な人が存在していた場合、逃げ切れる可能性は凸なべの方が少しは高いと思われた。
マンションはオートロックのため、「ヤバかったら逃げ込めるように玄関のところでドア開けてて!」と母に伝え、コートを羽織り、スマホを携えていざ出陣!
声が聞こえてきていると思われるところから、一番近い通用口を開け叫んだ。「どこですかー?」
……返答はない。
返答はないが、真っ白い雪が積もっている通路の一ヶ所に不自然な黒っぽいカタマリが見えた。通用口のドアを母に任せ、数歩近づいてみる。すると、泣きじゃくる声と「助けてください」という言葉が聞き取れた。
雪の中に埋もれて助けを求めて泣いているその人以外、周りに人影はなし。
膝下くらいまで積もっている雪をかき分け、近づき声をかけた。「ど、どうしました?」
10代後半くらいの少女が雪の中で横たわっていた。外出して帰ってきたばっかりという感じの服装で防寒着もしっかり着ていたが、靴は履いていない。
その子は「落ちた」と。
思わず上を見上げる。凸なべのマンションは8階建て。少女が横たわっていた真上の8階の廊下の窓が開いていた。
8階の窓を指差し「落ちたって、あそこから?」と尋ねると、「そう」とうなずく。
なんでそんなコトに!?と思いながら、とにかく救急車を要請。8階から落下したようだ、と。両足の痛みを訴えて泣いてはいるが、意識はしっかりして受け答えも出来ている。積もっていた雪がクッションになって、どうやら最悪の事態は免れているようだった。
マンションの入り口からは、少女が倒れている場所が死角になっているため、ドアを開けていてくれた母とちょうどタクシーで帰ってきたらしいどこかのおば様が救急車の誘導へ行ってくれた。
そして、救急車を待っている間、泣きながら語り始める少女。
「飛び降りようと思ったんだけど、勇気が出なくて友達に電話していた」「電話している最中に、手が滑って窓から落ちた」「寒いし痛いし、怖くなって助けを呼んだ」。自宅に親はいないのかと尋ねると、母親がいると。母親の電話番号を聞き、連絡するが出ない。数分後、少女の靴とカバンを持った母親が現れた。
「あんた、何してんの?靴とカバンだけ廊下に置いて~。」
……いや、倒れてる娘を見ての第一声それ!?そういうもん!?
もはや、慣れているのか?と思えるほどの母親の対応。救急車を要請していることを伝えると、「あ、保険証持ってこなきゃ。」といって走り去っていった。
マジ謎。保険証は大事だけど、娘ほったらかして行っちゃいます?
ほどなくして救急車が到着し、その少女は保険証を取ってきた母親と共に搬送されて行った。
「なんか、疲れたね。」
母と家へ戻ると、父が「何かあったのか?」と。
「あ~、何か人が落ちてきてた感じ?」と適当に受け答えててハッとした。そういえば、結構騒がしかったし、少女もまぁまぁな音量で助けを求めていたけど、タクシーで帰ってきたおば様以外のマンションの住人は誰一人見ていない。

そんなことを考えていたら、スマホに着信。警察からだった。事情聴取だそうで。
とりあえず、少女が語っていた内容を伝えた。「自分で飛び降りようとしたけど、勇気が出なくて友達に電話してたら誤って落ちたと言っていました」。
警察「そうですか。事件性はないですかね~?」

何だか適当な事情聴取も終了したころは、深夜2時を回っていたので眠りについた。
その後、その少女には会ってはいないが、救急車を呼んだときに聞いた名前はマンションのポストにあるので住んではいると思われる。元気になっていれば良いが……。
その2:1月11日 男の人の叫び声
少女が落ちてきた1月4日の出来事から約1週間。正月ボケからも脱却しつつあり、1週間前の出来事が家族の間でときどき話題にあがる以外は、いつもと同じ生活に戻っていた凸なべ。
いつもは家族3人で夕飯を食べるのだが、凸なべはその日、会社帰りに歯医者を予約していた。
歯医者を終えて帰宅すると、父は風呂に入っていた。
リビングでテレビを見ながら母が作ってくれた夕飯を食べているときだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……。」
遠くで男の人の叫び声が聞こえた気がした。
反射的に窓の方に目を向ける。
隣でテレビを見ていた母が「どうしたの?」と。
「何か、男の人の叫び声しなかった?」
「え~。また、やめてよ~。何も聞こえなかったけど?」
確かに、もう聞こえてはいない。でも、すごく気になる。1週間前にあんなコトがあったばっかりだからだろうか?
何もないとは思いながらもベランダに出てみた。リビングの窓はベランダに続いており、見えるのは隣のマンションの駐車場。当マンションとの間は7~8Mほどはあり、その間は今は深い雪で覆われている。
見える駐車場には人影は見当たらない。現在は話し声なども聞こえない。
だが、ふと気になるものを見つけた。おそらく腰くらいまでは埋まるであろう一面の雪。誰かが通った形跡もない。ベランダから見て右斜め方向。その真っ白い一面の雪の中に1ヶ所黒い穴のようなものがあった。だが、真上からではないので大きさも深さも、本当に穴が開いているのかも確かめられる状態ではなかった。
気になりはしたが確かめる術もなく、声がしたのも空耳の可能性が高い。
凸なべは、部屋へ戻り気のせいみたいだと母に告げ、夕飯の残りをいただいた。
夕飯も終わり、ゆっくりしていたそのとき、複数の人の話し声が聞こえてきた。隣の家のテレビがいつも大音量で音漏れしてくることがあるので、その音かと思っていた。だが、カーテンの外に動く複数の光。
「外、光ってない?話し声もするし。」今度は母にも聞こえていた。
カーテンを開けてみると、5人ほどの人が懐中電灯を片手に腰まである雪をかき分け左から右へと進んでいた。

窓を開け、ベランダに。すると話し声が聞き取れる状態に。
「大丈夫ですかー?」「今、引っ張り出すから、じっとしててくださーい。」
どうやらレスキュー的な人達の模様。先ほど凸なべが気になっていた穴のようなところに向かって叫んでいるように見えた。後ろから来た人は担架を持っていた。

数分後、担架に乗せられたおじ様が運ばれていった。元気にしゃべっていて、こちらもどうやら雪がクッションになり大事には至らなかった様子。その後、警察と思われる方も数人来て、現場検証をして帰っていった。
後から、酔っ払ってベランダで酔いを醒ましていたときに誤って落ちたらしいという噂を聞いた。だが、ベランダの柵は1Mはあると思われるが、乗り越えたのだろうか?
このマンションに住み始めて20年近く経っているが、事件や事故の話は聞いたことがなかった。しかし、こんな短期間で2件も落下事故が起きるなんて、いつの間にか事故物件になったのかと思うほどだった。
その3:1月下旬 男の人の唸り声
詳細な日付は覚えていないが、いろいろあった1月も終わりに差し掛かった下旬。
時刻は薄暗くなってきていた16時ころ。車で近くのスーパーに買い物に出かけ、帰宅したときのこと。駐車場に車を停め、マンションに入るのに通用口の鍵を開けようとしたときだった。
「う~……。う~……。」
どこからともなく聞こえてくる男の人の唸り声とも思える低い音。
振り返って辺りを見渡すが、誰もいない。でも、低い音はまだ聞こえている。

「変なことが立て続けに2度もあったけど、さすがに3度は無いでしょう!!」という思いと、「2度あることは3度ある」という思いが交錯。軽いパニックになりながら、低い音の聞こえてきている方向へ耳を傾ける。
低い音は少しずつ近づいてきていた。少しずつ音が聞き取れるようになってくる……。
「……しや……も~。……。」

「いし……や~……も~。……も!」

すっごい聞きなれたメロディで、凸なべの耳に届いてきたのは……、
「いしや~きいも~。おいも!」

以上、ある年の1月の出来事。
完